昨年の夏に投稿した「スピーカーケーブルを買う(2)」の続き。
いっとき治まりかけたオーディオ熱が昨年の冬になって再び高まってしまった。まず、Diamond 220でバイアンプ接続を試したくなり、スピーカーケーブルのZONOTONE 6NSP-1500をもう一組購入してつなげてみた。効果は明らかで、「こんなに鳴るのか」と驚くまでに低音が豊かになった。ただ、そのぶんブーミーになり、ボンボン鳴るのが気になり始めた。それを解消すべく壁から離したり、ミニスタンドやらボードやらインシュレーターやらを買ったりしたのだが、工夫の甲斐あって低音はかなり引き締まった。
これで満足して熱は治まるかと思いきや、むしろ逆効果だった。これだけ音に迫力が出てきたわけだが、個性や特性の異なるスピーカー、あるいはワンクラス大型のスピーカーを置いたら音はどんな風に、どれだけ変わるのだろう。違いをこの耳で確かめてみたい、という新たな欲が芽生える羽目になってしまった。コロナ禍で外出もままならず、たまり続けたストレスのはけ口が物欲に向かおうとしているのかもしれない。気がついたら、新しいスピーカーを買う気満々になっていた。
新しいスピーカーに求めるものはいくつかあった。暖色系で音場の広がりが心地よいDiamond 220はデスクトップに移動して楽しむことにして、代わりにリビングに置くメインスピーカーはナチュラル系がいい。フロントバスレフ型で、海外ブランド。予算は7万円くらいまで。そしてクラスだが、最初はDiamond 220と同じ13cmクラスを探そうと思っていたのだが、どうせ買い足すのなら16.5cmクラスにしたほうがDiamond 220との違いを明確に実感できるのではないかと思い始め、このクラスも対象に含めることにした。過去の記事で書いたように、「あまり大型のモデルを買っても、音に気を遣う賃貸に引っ越したときに真価を発揮できそうにない」から13cmクラスのDiamond 220を選んだのだけど、まあそれはそれ。
こうした条件でいろいろ調べてみた。まず、レビューサイト「What Hi-Fi?」のバジェットスピーカー部門で1位と、アメリカでの人気と評価が高いELAC DEBUT 5.2が候補に挙がった。フロントバスレフ型であるところはいい。でも13.5cmクラスというのがなあ……。ということでいったん保留に。続いてDALI OBERON3が候補に挙がったが、リアバスレフ型だし、音の傾向もナチュラル系ではなさそうなので惜しくも落選。Q Acoustics 3030iもリアバスレフだし、奥行きが長すぎる。KEF Q350は一つ目小僧みたいな外観が気に入らない。JBLは正直好みではないし、B&Wは少々お高い。そんな感じで検討を重ねていき、最終的にたどり着いたのが、「HiVi冬のベストバイ2020」のスピーカー部門(ペア10万円未満)で第一位になったELAC DBR62だった。自分のニーズはほぼすべて満たしているではないか。ついに見つけてしまった。そう思ったらいてもたってもいられなくなり、なかば衝動的にとあるネットショップでポチってしまった。ところが、ショップからのメールによれば、メーカー在庫なし、入荷日未定とのこと。がっかりしたが、気長に待つことにした。
待っている間のテストとして、本格的なスタンドを購入した。こちらはすぐに届いたのでさっそく設置。Diamond 220を載せて聴いてみた。一聴してすぐに違いに気付いた。これまでウッドラックとミニスタンドの上に載せていたのだが、それに比べて音が飛躍的にクリアになったではないか。霧がすーっと晴れて音の見通しが一気によくなった印象。正直なところ、たいして効果は上がらないだろとなめていたのだが、単に自分が無知なだけだった。
ここで迷いが。バイアンプにして、スタンドに載せて、これだけ音が良くなったのなら、このままDiamond 220で聴き続けても不満はないのではないだろうか。やっぱり買い替えは止めようかな。入荷がいつになるかもわからないし、いったんDBR62はキャンセルして様子を見てみよう。そう決めかけたところで、ショップから入荷のメールが届いているのに気がついた。しかもすでに発送までされているではないか。えーもう届いちゃうの。心の準備ができないうちに家に届いてしまった。
そんな経緯でやってきたDBR62だけど、結論から言えば、キャンセルしなくてよかった。とても満足できる買い物だった。300時間近く鳴らし込んでの印象だけど、音は極めて素直でナチュラル。これは期待に沿うものだ。Diamond 220に比べて、音の量感と解像感はさすがに1つ上のレベルで、とりわけ高音の抜けの良さはDiamond 220にないものだけに気持ちよく感じる。フロントバスレフだから後ろの壁との距離をさほど考慮しなくてよいし、ボリュームを絞っても思ったほど音痩せしないから、小音量しか出せない賃貸に引っ越しても使い続けられそうだ。音場も予想以上に広い。というわけで、スピーカーを求める旅はこれで本当におしまいになりそうだ。DBR62の音に満足できなければ、あとはもう10万円超えのモデルを買うしかなくなるが、そこまで沼にはまるつもりはない。これ以上の音を追求するのであれば、むしろアンプをアップグレードしたほうがよいだろう。
Diamond 220はデスクトップのPC脇に移動した。それまでデスクに置いていたONKYO 112NFXからは音が両耳に直線的に入ってきたが、対照的に、Diamond 220を置いてみると、目の前、つまりPCモニターの前で鳴っているような不思議な広がりを感じる。Diamond 220に置き換えたことで高域の繊細さは若干失われてしまったが、代わりに低音の迫力がぐっと増し、音場に包まれる感覚が豊かになった。しばらくこのまま聴いてみて、不満が出てきたらアンプやDACを買い替えることにしようか。ところでONKYOというメーカー、これからどうなってしまうのか。